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松江地方裁判所益田支部 昭和62年(ワ)26号 判決 1991年2月21日

原告 田中晴男

同 島内清

右両名訴訟代理人弁護士 吾郷計宜

被告 益田市漁業協同組合

右代表者理事 中島俊夫

右訴訟代理人弁護士 御正安雄

主文

一  原告島内が被告の正組合員(被告の定款八条一項一号の規定に基づく組合員)の地位を有することを確認する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告に生じた費用の三分の一と原告田中に生じた費用の全部を原告田中の負担とし、被告に生じたその余の費用と原告島内に生じた費用の全部を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  原告らが被告の正組合員(被告の定款八条一項一号の規定に基づく組合員)の地位を有することを確認する。

二  被告は原告らに対し各五〇万円及びこれに対する昭和六二年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、原告らは被告の正組合員資格要件を満たすのに被告は原告らを正組合員と認めないとして正組合員たる地位の確認を、また被告理事会が昭和六二年度において原告らを准組合員とした判定は被告理事らの故意又は過失による不法行為であるとして慰謝料各五〇万円とその遅延損害金の支払いを、それぞれ求める事案である。

一  認定事実

1  被告の組合員資格

(一) 被告は、水産業協同組合法(水協法)に基づき設立された漁業協同組合(漁協)であり、その地区を島根県益田市の区域とするものである。

(二) 水協法は、その一八条において漁協の組合員資格を規定し、正組合員については「組合の地区内に住所を有し、かつ、漁業を営み又はこれに従事する日数が一年を通じて九十日から百二十日までの間で定款で定める日数をこえる漁民」(一項一号)等とし、また、正組合員資格を有する者以外の漁民等についても定款で定めることにより准組合員資格を有する者とすることができる(五項一号)としている。

被告の組合員資格は、水協法一八条を受けてその定款において、正組合員と准組合員とに区分して規定し、正組合員は「この組合の地区内に住所を有し、かつ一年を通じて九〇日をこえて漁業を営み、またはこれに従事する漁民」(定款八条一項一号)と、准組合員は「この組合の地区内に住所を有する漁民で、前項第一号に掲げる者以外のもの」(同条二項一号)と定めている。

(三) 被告は、その全組合員の組合員資格を理事会の諮問機関である資格審査委員会(委員会)で審査した上理事会で審議し判定している。

2  原告らの事業及び組合員歴等

(一) 原告らは、その所有する動力船により釣客を大浜港から約一一・六キロメートル沖合の高島に陸揚げし、大浜港に送り帰す渡船と、高島周辺海域に運び船釣をさせる遊船の事業(以下遊船業を含み「渡船業」という。)を営み主としてこれにより生計を立てているが、右渡船の送迎の合間や遊船の際一本釣りの方法による漁をし、その釣果を被告に出荷している。

(二) 原告田中は昭和四二年頃から、また、原告島内は昭和四六年四月頃から、いずれも現在に至るまで益田市内に住所を有し、被告の組合員の地位を有する者であり、昭和六一年度「なお、被告の一年度は当年四月一日から翌年三月三一日までを対象とする。)はいずれも正組合員であった。

3  被告による原告らの組合員資格判定

(一) 被告は、昭和六二年度における組合員資格を同年四月三〇日開催の委員会において審査した後、同年五月九日開催の理事会において審議し、原告らについては准組合員と判定した。

(二) 被告は、昭和六三年度における組合員資格を同年五月一九日開催の委員会において審査した後、同月二三日開催の理事会において審議し、原告らについては准組合員とすることを決定した。

(三) 被告は、平成元年度における組合員資格を同年五月二〇日開催の委員会において審査した後、同月二七日開催の理事会において審議し、原告らについては准組合員と判定した。なお、平成二年度は組合長理事中島俊夫が病気であるとして委員会及び組合員資格審議のための理事会は開催されていない。

〔1及び2各事実並びに3(一)の事実は当事者間に争いがなく、3のその余の事実は《証拠省略》による。〕

二  主たる争点

1  原告らは漁業を営む漁民といえるか。

2  原告らが漁民である場合、原告らの

(一) 昭和六二年度における正組合員資格の有無(昭和六一年度において一年を通じて九〇日を超えて漁業を営んでいたか)。

(二) 現在における正組合員資格の有無

第二争点に対する判断

一  原告らの漁民性の有無(争点1)について

1  漁業及び漁民の意義

被告がその定款で定める組合員の区分及びその資格要件は、水協法に基づくから、右資格要件を構成する用語の意義は水協法と同義と解される。そこで、まず、水協法における漁業、漁民の意義を検討する。

水協法一〇条一項は、漁業とは、水産動植物の採捕又は養殖の事業をいうと定めている。すなわち、漁業とは、水産動植物の採捕又は養殖を営利を目的としてあるいは生計の手段として反復継続して行っていると認めることができるものをいい、採捕又は養殖行為が主要なものであるが、更にこれに関連する資金及び資材の調達、出漁等のための準備、魚群の回遊や天候・波浪・災害等の事由で出漁できない場合の待機並びに漁獲物の処理及び販売等一連の行為(具体的あるいは肉体的活動のみならず抽象的ないし精神的活動も含む。)一切が該当し、右採捕等の行為についてこれに従事する日数ないし時間、漁獲物等の種類及び量並びに販売金額ないし利益等を総合して社会通念に照らし判断されるものと解される。また、同条二項は、漁民とは、漁業を営む個人又は漁業を営む者のために水産動植物の採捕若しくは養殖に従事する個人をいうと定めている。

2  漁業との兼業の可否

(一) 漁業と他の事業との兼業の可否及びその態様

水協法は、前記のとおり、正組合員資格の漁業日数要件を、一年を通じて九〇日から一二〇日までの間で定款で定める日数とし、一年全部について漁業を営むことを要件としていないのであるから、正組合員を漁業を専業とする漁民や漁業にその生計が高度に依存する漁民のみに限定するものではなく、他の事業との兼業を認めていると解される。実際、漁民の相当多数が漁業のほか農業等他の事業を兼業していることは公知の事実である。なお、複数の事業を営む場合、各事業が相互に関連していたり、ある事業が他の事業の機会や施設設備を利用するなど依存している場合等には、それぞれが独立して採算を上げ得なくとも、総合して収益の向上が図られ全体としてより採算を上げることとして兼営されることの少なくないことは公知の事実であるが、漁業と他の事業を兼業する場合においても異ならないというべきである。

(二) 渡船業と漁業との兼業の可否

(1) 原告らが営む渡船業が漁業でないことは右漁業の意義に照らし明らかである。しかし、水協法は渡船業と漁業との兼業を禁じていない上他にこれを禁ずる法令もないところ、右兼業が不可能とはいえないし、また渡船業者と漁業者を兼ねることが相容れないとは直ちにはいい難いところである。そうすると、右兼業は、営業の自由に照らし一般的には可能であり、渡船業者である原告らについてもその出漁方法等いかんによっては漁業を営む漁民と認めて妨げないというべきである。

(2) 被告は、渡船業者が漁業を兼業すると認められるのは漁業自体において独立した経済性、採算性が存する場合に限られる旨主張するが、兼業につき前記説示したところに照らし採用できない。

また、被告は、釣客と漁業者は漁場管理及び資源確保の配慮や経済性等につき異なり、釣客のために事業を行う渡船業者と漁業者は利害につき対立する部分が多いとの見地から、渡船業者が漁業を兼業する者と認めるには慎重であるべきと主張するが、右対立部分があり得るとしても、両者の利害調整は兼業認定とは別個の問題であるから採用できない。

3  原告らの漁の方法

(一) 原告らの経歴

原告島内は、高島の出身であり、中学卒業後一本釣漁業を営んでいた父を手伝い一年程一本釣漁業を営んだ後、巾着網や延縄漁業等に従事したが、昭和四十七、八年頃から二・五トン程度の漁船を所有して再度一本釣漁業を営むようになった。昭和五〇年頃からは渡船業を営むようになったが、その後も現在に至るまで一本釣りによる漁を続けている。

原告田中は、昭和四二年頃から二トン程度の漁船を所有して一本釣漁業を営んだ。昭和四十七、八年頃からは渡船業を営むようになったが、その後も現在に至るまで一本釣りによる漁を続けている。なお、農業も営み、現在は一反半程の農地を耕作している。

(二) 現在の使用船舶について

組合島内は昭和五三年総トン数六・六九トンの動力漁船「ゆき丸」をエンジン込み総費用約一〇〇〇万円で、また、原告田中は同一〇・〇七トンの動力漁船「益田丸」を同約二〇〇〇万円でそれぞれ建造して所有するところ、原告らは、右各漁船をいずれも釣客を乗せるに適するよう一部を改造しながら一本釣漁業に使用できる漁船としての形態・機能をも残し、右建造後現在に至るまで渡船業の用に供するとともに漁に際しても使用している。なお、右各動力漁船は島根県の動力漁船登録票に登録され、また、同票の「漁業種類又は用途」欄には、ゆき丸は「一本つり漁業」と、益田丸は「一本つり漁業(ひき網釣)」と記載されている。

(三) 原告らの渡船事業

(1) 渡船業の具体的形態

原告らは、その渡船業を毎年四月一日から一一月三〇日まで、年により一二月三〇日まで営んでおり、その方法は、大浜港を根拠地とし釣客の要望に応じて概ね午前(午前五時ないし六時頃出港し午後一時頃帰港)、半夜(午後二時頃出港し午後九時頃帰港)、夜釣(午後二時頃出港し翌午前五時頃帰港)の三通りの時間区分により大浜港と高島との間(片道約三〇分)を往復送迎することを主とするものであり、また、釣客を高島周辺海域に運び船釣をさせることも若干行っている。

(2) 釣客の安全に対する実施策

昭和六一年当時、大浜港と高島の間で前同様の渡船業を営む者は原告らを含めて四名いたが、午前の渡船につき右四名は陸揚げした釣客の安全を図るため自主的に当番制を設け実施していた。すなわち、右四名のうち一名が順番に当番(差支えの場合は順次その順番が繰り上がる。)となり午前八時と午前一〇時頃の二回渡船に使用した動力漁船で高島周囲の海上を巡回して(なお、一周は約一〇ないし三〇分程度)監視するほか高島付近の海域に待機し、また、危険な場所に揚がる釣客にはトランシーバーを携帯させて釣客のけがや急病等に対応できるようにしていた。また、原告らは、当番外の場合も自分の客に責任を持つ立場から当番船から無線連絡を受けることにより現場に急行できるよう高島付近の海域で待機することにしていた。渡船業者が原告ら二名のみとなった平成元年以降は、原告らで右当番制を実施しているが、右のような安全対策を実施して数年来事故がない上渡船業者の減少により釣客を安全な場所に揚げられることになったことから、巡回は通常午前九時頃一回となり、風が強く波が荒い場合などに二回することに変更された。

なお、半夜と夜釣については当番制は実施されておらず、巡回監視は半夜については荒天等の場合のみに、夜釣については午前零時頃一回実施されている。

(四) 原告らの漁の方法

(1) 渡船に際しての漁の方法

原告らは、右待機中の時間を休息に充てるほか、その時間を利用して高島付近の海域で一本釣りにより鯛(キンメダイ、マダイ等)、イカ(ブトイカ等)、イサキ等の漁を行っている。なお、右待機時間を利用する漁は一回当たり多くの場合二ないし三時間程度である。原告らは、その釣果につき経済的価値の少ないものや出荷に適しなくなったものを除きほぼ全部を被告に出荷しており、また、原告らが被告に出荷した海産物はすべて原告ら自身の一本釣りによる釣果である。

ところで、被告は、原告らは右待機中釣客の安全を確保するためその行動の監視や救助の準備等のため拘束されており、その間の釣りは漁業とはいえない旨主張する。しかし、原告らが行っている巡回監視等の行為は法令や行政庁の指示ないし指導に基づくものではない上、釣客との契約上の義務に基づくとの根拠もないから、自主的な措置にすぎず拘束性はないというべきである。また、仮に拘束性があるとしてもその内容程度は釣客の安全を確保するため必要な限度を超える必要性はないところ、原告らの巡回監視等の行為の内容に照らすと、その待機時間中一本釣りの方法による漁を禁ずる必要性は認め難い。そうすると、右待機中の漁であっても、兼業につき説示したところに照らし、それゆえをもって漁業性を否定することはできないというべきである。

なお、遊漁船業の適正化に関する法律(昭和六三年法律九九号。平成元年一〇月一日施行)は、遊漁船業者(本判決の渡船業者はこれに含まれる。)に対して、気象情報の収集等(四条)のほか、利用者の安全を確保するため必要な限度において、政令により事故が発生した場合における連絡体制の整備、利用者が遵守すべき事項の掲示その他の遵守事項を定めることができるとし(六条一項)、同法施行規則において右整備(一〇条)及び掲示(一一条)の内容方法のほか、磯等において利用者に水産動植物を採捕させる業者に対し、気象及び海象、磯の地形その他の状況の把握に努めること、及び採捕を終了した利用者が帰港する遊漁船に乗船していることを確認することを定めている(同規則一二条)。しかし、同法及び同法施行規則は、更に前記のような釣客の監視や巡回についてはなんら規定していないのであるから、同法施行後においても右監視等が原告らの自主的措置であるとの性格は異ならないというべきである。

(2) 漁を目的として出漁した際の漁の方法

原告らは、渡船業を営む期間中で釣客のない場合、また、渡船業を営まない期間、一本釣りによる漁を目的として出港し、鯛、イカ、イサキ等の釣果を前同様出荷している。なお、冬期間は、日本海は荒れる日が多く、出漁不能ないし相当危険な場合が多いため、他の漁業者同様原告らも出漁する機会は少ない。

4  原告らが漁を行う理由

原告らが3記載の漁を行う理由は、その釣果の出荷収入を生計の一助とすることにある。すなわち、原告らは、渡船業により年間約三〇〇万円から四〇〇万円強の収入(売上高)を有するが、他方動力漁船の建造費及びエンジン購入費等のローンの支払い、動力漁船及びエンジンの修理費、燃料費等相当額の支出を要するため、渡船業収入のみでは、その妻子等扶養家族の生活を維持するに必ずしも十分でない。そこで、多少なりとも収入増を図り生活の余裕を得るべく右漁を行い、その釣果を出荷して年間約三〇万円から九〇万円程度の収入を得ている。

5  原告らの漁民性

原告らは、その漁の方法及びその時期と漁を行う理由等を総合すると営利性をもって反復継続して漁を行っているということができるから、漁民というに妨げないというべきである。すなわち、漁を目的として出漁した場合の漁は、その使用する動力船が通常一本釣り漁業に使用される漁船より若干大型である以外はその形態及び目的において一本釣りの漁業者と格別異なる点はなく、兼業の形態について述べたところに照らすと、使用船が若干大型であることのゆえをもって漁業性を否定することはできない。また、渡船に際しその待機時間を利用して行う漁は、送迎や巡回に要する時間に潮流等を考慮すると、多くの場合一回当たり二ないし三時間程度と考えられ、したがって釣果たる漁獲物量ひいては出荷金額も専業者に限らず原告ら自身が漁それ自体を目的として出船し漁を行った場合に比べても相対的に少ないが、その形態及び目的は漁それ自体を目的として出船し漁を行う場合と同様であり、しかも右のような事態は、例えば農漁業の兼業者が午前中は農業に、午後漁業に従事する場合においても生じ得ることであって、その従事する時間等が相対的に少ないことのみをもって漁業性を否定すべき理由はないというべきである。そして、原告らは、出漁可能な全期間を通じて漁を行っているから、漁業の反復継続性を認めることができ、また、原告らが漁を行う理由に出荷金額をも考慮すると、右漁には営利性を認めることもできる。

なお、被告は、原告らを長年正又は准組合員として認め、しかも本訴が提起された昭和六二年度以降も現在まで引き続き准組合員として認めているところ、准組合員も漁民であることを前提とするから、被告自身、本訴における主張と裏腹に原告らの漁民性を認めているということができる。

二  原告らの漁業日数(争点2)について

1  漁業日数の意義

水協法一八条が、漁協の正組合員資格につき、一年を通じて九〇日から一二〇日までの間で定款で定める日数漁業を営み又はこれに従事することを要するとして、漁業日数を要件としていることは前記のとおりである。ここに漁業を営む日数とは、漁業経営のための一連の行為に使用した時間量であるが、漁業日数一日は、漁業に一日の全時間を使用した場合をいうものではなく、一日の活動可能な時間のうち相当程度の時間あるいは通算又は分割して右程度に相当する時間を漁業に使用した場合に計算される(組合員資格の日数要件は被傭者たる漁業従事者と同一であるから、労働者の労働時間を定める労働基準法三二条以下の規定が参考とされよう。)と解される。

2  正組合員資格としての漁業日数

正組合員資格に漁業日数要件を設け、その範囲を限定した趣旨は、漁協の正組合員を漁業に依存する度合が大きく、その利害関係が一致する均質の者のみに純化するためと考えられるが、漁業活動には精神的な無形の活動も含まれ把握に困難な場合があり、また疾病や常勤役員として組合業務に従事するなど客観的かつ一時的事由により漁業を営み又はこれに従事することのできない場合もあることなどを考慮すると、正組合員資格判定のための漁業日数計算ないし正組合員資格の有無の判定は、機械的な計算ないし判定によるべきものではなく、漁業を営み又はこれに従事する意思及び能力、漁業の漁期、漁業資源の状況、漁の態様・程度、年間総収入に占める漁業収入の割合のほか右客観的かつ一時的事由の有無・内容等の諸事情を総合し、究極においては社会通念により判定せざるを得ない。すなわち、正組合員資格は、漁業についての過去の実績のみに基づいて判定すべきものではなく、実績がなくあるいは少なくとも今後漁業に専念ないしはより多く従事すると認められ、しかも、その漁業日数が社会通念に照らし客観的に所定の日数を超えると認められる場合は資格があると判定すべきである。

3  組合員資格判定についての水協法の立場

(一) 組合員資格の判定方法

漁協の組合員資格は、水協法における組合員資格に関する規定(一八条以下)によると、組合員たる資格を有する者(一八条)から加入申込を受けた漁協が組合員資格要件を満足することを確認するとともに右申込者が漁協の付する条件(なお、現在の組合員の加入に際し付したより困難な条件を付することはできない。)に同意し履行することにより取得し(二五条)、一旦資格を取得した組合員は、脱退しない限り右資格を失わないと解される。そして、組合員資格は正組合員資格と准組合員資格に区分されるが、資格判定方法については水協法はこれを規定していないから、漁協の理事ないし理事会が適宜の方法により行うことができるというべきである。もっとも、右判定は、恣意を排し組合員全員につき客観的かつ公平に行う必要があるが、これを組合員ごと個別に行うことは、考慮すべき事情が前記のとおり多様であり社会通念も一義的でなく幅があり得るから、殊に組合員が多数にのぼる場合には、相当困難であることが予想される。そこで、右判定のための方法や基準をあらかじめ決定しておく等により適切に判定すべきことが考慮されるが、この場合、漁協は、その所在地域等条件が多様なため、これを構成する組合員数及びその年齢構成、漁業内容及びその形態、出荷方法、水揚高及び出荷金額並びに所得水準等が大きく異なるから、いかなる判定方法、基準を設け運用するかは、漁協が水協法の趣旨のほか漁協の実態ないし個別事情を考慮して、その裁量により具体的に決定すべきであり、また、その決定されたところはこれを不合理と認める特段の事情のない限り尊重すべきものである。

(二) 主張立証責任

漁協と組合員との間に組合員資格区分の変更に争いがある場合、右変更についての主張立証責任は次のように解されるべきである。

(1) 正組合員から准組合員への変更

正組合員資格と准組合員資格を区分する漁業日数は機械的計算によるのではなく結局社会通念による上、議決権や役員及び総代の選挙権は正組合員のみが有する(水協法二一条)など一旦正組合員資格を有するに至った者が准組合員に資格変更されることは一種の不利益処分にほかならないから、正組合員は理事ないし理事会が右変更の判定をしない限り正組合員資格を保持するものであり、右資格変更要件の存在(正組合員資格基準を設けた場合は基準非該当)は漁協において主張立証責任を負うと解すべきである。このように解しても、漁協は日常の業務を通じて組合員の漁業活動、出荷実績、施設利用状況を把握しているから、漁協に困難を強いるものではない。

(2) 准組合員から正組合員への変更

准組合員が正組合員への資格変更を主張するためには、組合員において正組合員資格要件を満足し漁協の付する同資格条件を履行したことを立証することとを要し、立証した場合には、漁協は職能団体としての性格を有し正当な理由なく加入を拒否できない(同法二五条)ことにかんがみ、理事ないし理事会の判定を待たず正組合員資格を取得すると解すべきである。

4  被告における正組合員資格及びその判定方法

(一) 正組合員資格

被告は、正組合員資格要件である漁業日数を、定款で一年を通じて九〇日を超える日数と規定するところ、右説示に照らすと、右規定は、前記の諸事情を総合することにより、少なくとも一年の四分の一程度漁業で生活する漁民と社会通念に照らし認めることができる者をもって被告の正組合員とする趣旨と解される。

(二) 正組合員資格の判定方法

被告は、組合員資格の判定を客観的かつ公平に行うため、理事会の諮問機関として資格審査委員会を設置し、その審査結果の答申を受けた理事会において最終的に判定している。そして、委員会及び理事会は、正組合員の資格審査基準を設定し、これに基づき審査、判定を行っているところ、右基準は、従前は長年の功労者に配慮した別紙1の基準により、また、昭和五七年度以降は別紙2の基準によっていたが、昭和六二年度において、正組合員を現に漁業を行い漁業に生計を依存する漁業者に限定することにより組合の純化を図る見地から別紙3の基準に変更し、以降これによっている。

ところで、昭和六二年度における組合員資格審査及び判定の経過及び結果は次のとおりである。すなわち、委員会は、昭和六二年四月三〇日、委員のほか中島組合長が出席して開催された。その席上委員に資料として別紙3の基準を記載した文書のほか昭和六一年度組合員氏名・出資金額・出荷日数・水揚高・資格を記載した一覧表が配布された後、中島組合長から冒頭、正組合員の純化を実施する観点からその資格を厳格に認定するよう要請がなされた。次いで、別紙3の基準の審議に入り、その質疑において、組合長から、基準1項につき、採貝藻漁業者、網漁業者等を対象としたものであるが、飽くまでも一年を通じて九〇日以上漁業を営む者が対象となる旨の説明が、更に委員の質問に応じて、正組合員と准組合員との間には出資金額の面で差はないこと、正組合員の資格判定には水揚額についての最低額はなく九〇日以上の操業者であれば足りることの回答がなされ、基準2項につき、病気の期間は一年程度である旨の、また基準4項につき、漁と渡船を行う者についてはその比重により漁業者又は渡船業者と判断すべきで、渡船業の比重が高い渡船業者が「渡船業の傍ら魚を採っても漁業者ではない」旨の説明がなされた後、右基準が承認された。更に各組合員の資格審議に移り、まず一覧表に基づき基準1項の充足の有無を検討し、原則として、出荷金額・水揚高のいかんにかかわらず出荷日数三〇日以上の者及び法人の漁業従事者を正組合員、同二九日以下を准組合員とした。その後、基準4項の適用に進んで原告ら渡船業者につき審議し、委員から原告らは出荷日数・水揚高(原告島内七一日・七四万五八五〇円、原告田中六三日・八二万七八九〇円)が相当あるとして正組合員資格を認めるべきとの意見も出たが、中島組合長から原告らは渡船業の比重が高いから渡船業者であって漁業者とは認められない上、原告らは島根県指定の漁獲共済に加入しておらず正組合員資格がない旨の見解と正組合員純化の方針が述べられ、結局原告らを准組合員として諮問することとなった。また、昭和六二年度理事会では、中島組合長から委員会の答申等の説明や質疑応答の後、准組合員と答申された者のうち二名を正組合員と修正判定したほか、答申のとおり組合員資格を判定した。

なお、一本釣漁業を営む者で右漁業のみの専業者は少なく、むしろ他の漁業や漁業以外の事業を兼ねて営む者が多いところ、少なくとも一本釣漁業を一部営む者で正組合員と答申及び判定された者の一部につき出荷日数・水揚高をみると、野村大介は四六日・三六万六八四〇円、野村修輔は六五日・五八万二一五〇円、寺戸萬市は四〇日・二四万二四九二円、大場惣次郎は六二日・一〇九万一五六〇円であり、同人らは大場を除き漁獲共済に加入していなかった。

(三) 昭和六二年度以降の正組合員資格基準とその運用

右認定説示したところによれば、被告は、昭和六二年度以降、正組合員資格の判定基準を別紙3記載の内容とし、その1項は、採貝藻漁業や網漁業の実態を考慮して原則として前年度の出荷日数が三〇日以上有する者は漁法、出荷一回当たりの金額や年間の総出荷金額等を問わず出漁日数五〇日以上、準備日数四〇日以上合計漁業日数九〇日以上有するものとみなして審査、判定に当たることとし運用したと認めるのが相当である。そして、右基準及び運用は出荷金額・水揚高を問わない点において漁業の産業性に照らし疑問がないとはいえず、また、その考慮した漁法と実態の異なる漁法を営む者に適用するにはそぐわない面もあるのではないかとの疑問も生じ得るところであるが、少なくとも一本釣漁業に適用することについては、右出荷日数三〇日以上を有する者は通常相当な出荷金額が期待されること、出漁に際し常に釣果があるとは限らない反面、出漁数日分の釣果を一度に出荷する場合もあり得ること、被告は右基準及び運用も被告の実情に沿ったものと解していると推定されることを総合すると、右疑問をもって右基準及び運用を不合理とする特段の事情とまではいえず、水協法上被告の裁量に委ねられた範囲内のものとして是認すべきである。また、基準2項については漁業意思は有するものの漁業能力やその機会が客観的かつ一時的事情により喪失ないし減少したに過ぎず、右の事情が存在しなくなれば再度基準1項を満足する程度の漁業活動が可能と客観的に判断される者は少なくとも一年を通じて九〇日を超えて漁業を営む漁民とみなし正組合員と判定する趣旨であり、同項の「病気等」には傷病のほか被告常勤役員への就任等右趣旨に沿う一切の事由が含まれると解されるところ、同項を不合理とする事情は認められない。

なお、被告は、基準4項を、渡船業者が遊船ないし渡船の機会を利用して行う漁は一切漁業とは認められず、また漁と渡船を行う者は一切兼業とは認めずその比重により漁業者又は渡船業者いずれか一方と判定すべきであると解釈運用したと認められる。しかし、同項の文言解釈としては遊船及び渡船業による操業それ自体は漁業操業ではないというもので、被告の右解釈は文言を越えた拡大解釈というべきところ、渡船業者が渡船等の機会を利用して行う漁もその態様、目的等によっては漁業というに妨げないこと及び兼業の態様については前記説示したところであるから、同項を右文言解釈を越えて拡大解釈し運用することは不合理であり、拡大解釈に基づく判定は効力を有しないといわざるを得ない。もっとも、この点、中島組合長は、委員会等における基準4項に係る前記説明は被告の島根県への照会に対する回答に基づく旨証言する。しかし、《証拠省略》を総合すると、島根県の回答は渡船業それ自体は漁業ではないというもので、右説明は中島組合長の見解にすぎないと推認されるから、中島組合長の右証言をもって右拡大解釈を許容すべき事情とは認められない。

5  原告らの漁業日数

(一) 漁の回数

昭和六一年度期間中において、出荷を目的として、原告島内は少なくとも別表1記載のとおり渡船に際しその待機時間を利用して六九回、漁を目的として出船して四八回、また、原告田中は、少なくとも別表2記載のとおり渡船に際しその待機時間を利用して五四回、漁を目的として出船して四八回一本釣りの方法による漁業を営んでおり(なお、いずれも釣果の有無は問わない。)、昭和六二年度以降も現在に至るまで昭和六一年度とほぼ同様の時期及び方法で漁業を営んでいるが、本訴訟による被告との紛争に基づく心理的影響による漁業機会の減少と漁業資源の減少により、その機会は昭和六一年度以降漸減している。

(二) 準備行為等

原告らは、(一)の一本釣り漁業のため、少なくとも道具類の購入・作成・整備・管理、餌の調達を行うほか、使用する動力漁船につき渡船営業と兼ねて又はこれとは無関係に整備、燃料調達等の準備行為を行い、更に出荷関係の行為など漁以外の漁業行為を行っている。

(三) 出荷実績

原告島内の出荷実績をみると、昭和六一年度は、出荷日数七一日(漁種別の計算による。実際の回数は七〇回である。)、出荷金額は七四万五八五〇円、昭和六二年度は五六日、四二万八九五〇円、昭和六三年度は四五日、三九万一八五〇円である。なお、平成元年度は昭和六三年度と大差はない。原告田中の出荷実績をみると、昭和六一年度は、出荷日数六三日(実際の日数は五五回)、出荷金額は八二万七八九〇円、昭和六二年度は四六日、六四万三二三八円、昭和六三年度は二三日、三一万四六九〇円である。なお、平成元年度は昭和六三年度と大差はない。

(四) 漁業日数

被告の正組合員資格に関する別紙3の基準とその運用に照らすと、原告島内は、その出荷実績において昭和六一年度から昭和六三年度までいずれも右基準1項を満足していることが認められ、また昭和六三年度と大差のない平成元年度も同様満足しているものと推認される。また、昭和六一年度から昭和六三年度において定款の趣旨とするところを原告島内につき個別に検討しても、右(一)ないし(三)に記載したところに照らすと、これを満足し、少なくとも一年を通じて九〇日を超えて漁業を営んだものと認めるのが相当であり、また平成元年度は昭和六三年度と大差がないから、少なくとも右九〇日を超えて漁業を営んだと推認するのが相当である。

これに対し、原告田中は、昭和六一年度及び昭和六二年度においては、その出荷実績おいて右基準等を満足していることが認められ、定款の趣旨とするところを個別に検討しても、右(一)ないし(三)に記載したところに照らすと、これを満足し少なくとも右九〇日を超えて漁業を営んだと認めるのが相当である。しかし、昭和六三年度においては、出荷日数が三〇日に満たないから右基準1項を満足せず、また、出荷日数が減少した理由は被告との本件紛争に基づく心理的影響による漁業機会の減少と漁業資源の減少にあるところ、右心理的影響による漁業機会の減少の点は疾病や被告常勤役員への就任等原告田中の漁業能力あるいは漁業機会を客観的かつ一時的に喪失ないし減少させる事由に基づくものとはいい難く、資源減少の点もその内容程度を具体的に明らかにする証拠はない上、原告島内は右基準1項を満足していることに照らすと、少なくとも同項を満足し得ないほどに漁業機会を減少させる事由とは認め難いから、右基準2項も満足するとは認め難い。さらに定款の趣旨とするところを個別に検討しても、右(一)ないし(三)に認定したところに照らすと、右の理由を考慮しても、これを満足し社会通念上少なくとも右九〇日を超えて漁業を営んだと認めることはできないというべきである。そして、平成元年度は昭和六三年度と大差がないから、少なくとも右九〇日を超えて漁業を営んだと推認することはできないところである。

三  原告らの正組合員資格

1  漁獲共済との関係

被告は、被告の正組合員は漁業災害補償法に基づく漁獲共済に義務加入とされているが、原告らは島根県漁業共済組合から漁業を営む者と認められずその義務加入者とされていないから正組合員とは認め難い旨主張する。ところで、漁業災害補償法(一〇四条二号、一〇五条二号、一〇八条一項、一〇八条の二第二号等)及び同法施行令等によれば、総トン数一〇トン未満の漁船により行う漁業を二号漁業として漁獲共済の対象とするところ、知事の定める加入区ごと及び漁業の区分ごとに①その加入区内に住所を有する者であること、②総トン数一トン以上の動力漁船によりその区分の漁業を主要な漁業として営む者であること、③その漁業を営む日数が一年を通じて九〇日を超える者であることの各要件を充足する者を特定第二号漁業者(なお、その判定は共済組合が行う。)とし、その三分の二の同意がある場合には特定第二号漁業者は全員が漁獲共済の加入申込みをしなければならないなどとされている。そして、原告らは、少なくとも昭和六一年度以降漁獲共済に加入していないのであるが、被告の特定第二号漁業者が漁獲共済に義務加入とされていること、また右非加入は共済組合が原告らにつき特定第二号漁業者の要件を満たさないと認定した結果であることを認めるに足りる的確な証拠はない上(なお、益田丸は総トン数一〇・〇七トンであるから、原告田中は二号漁業者の要件を満たさないといえる。)、仮に右認定の結果であるとしても右認定は共済組合が漁獲共済制度の趣旨からしたに過ぎず、原告らの昭和六二年度以降における被告の正組合員資格要件の判定に際し参考とすることは格別直ちに影響を与えるものではないというべきである。

2  改正水協法との関係

被告は、水協法の一部を改正する法律(平成二年法律第六七号)により、水協法一八条五項三号の二が新たに規定されたところ、右規定は渡船業者を准組合員と位置付けている旨主張する。しかし、右規定は遊漁船業の適正化に関する法律二条にいう遊漁船業を営む者のうち、その常時使用する従業者の数が五〇人以上である者について、漁協はその定款で准組合員たる資格を有する者とすることができるというものであり、その文言に照らすと、漁業を営まない渡船業者にも准組合員資格を付与し得るとしたものであって、漁業を営む渡船業者につき、その漁業実績にかかわらず正組合員資格を否定するものではないと解されるから、右主張は採用できない。

3  結論

以上認定説示したところにより原告らが被告の正組合員の地位を有するか否かを判断する。

原告らは、いずれも昭和六一年度において被告の正組合員たる地位にあったところ、被告理事会は昭和六二年度以降平成元年度において原告らにつきいずれも准組合員と判定したものである。しかし、原告島内は昭和六一年度以降昭和六三年度まで少なくとも九〇日を超えて漁業を営んだと認められ、平成元年度もこれが推認されるから、その住所と相俟って、右各判定は原告島内の組合員資格を正組合員から准組合員に変更する要件がないにもかかわらずなされたことに帰し右資格に変更をもたらすものではない。そうすると、原告島内は、現在(平成二年度)被告の正組合員の地位を有すると認められる。これに対し、原告田中は昭和六一年度及び昭和六二年度においては少なくとも九〇日を超えて漁業を営んだと認められるものの、昭和六三年度はこれを認めることができないから、平成元年度において准組合員に資格変更されたと認められ、その後平成元年度において少なくとも九〇日を超えて漁業を営んだことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告田中は、現在(平成二年度)被告の正組合員の地位を有するとは認められない。

四  原告らの損害賠償請求について

1  被告の損害賠償請求責任

以上認定説示したところによれば、原告らは昭和六一年度において少なくとも九〇日を超えて漁業を営み、その住所と相俟って昭和六二年度において被告の正組合員資格要件を満足していたにもかかわらず、被告理事会は原告らにつき准組合員と判定したということができる。原告らは、被告理事会の右判定は違法であり、その結果社会的信用を失うとともに被告の総会における議決権及び選挙権を奪われ多大な精神的損害を被ったと主張するので検討する。

前記認定にかかる右判定の経過に照らすと、右判定は被告の理事である中島組合長の昭和六二年度委員会及び理事会における別紙3の基準4項にかかる説明及び原告らの組合員資格に関する見解により委員及び理事らが漁業ないし漁民の意義を誤解した結果に基づくものということができる。そこで、中島組合長が右のような説明をした理由ないし動機についてみることとする。《証拠省略》を総合すると次の事実を認めることができる。中島組合長は、昭和三八年度以降現在に至るまで組合長の地位にある。原告田中は、昭和五三年度から昭和五五年度まで被告の監事に就任し、その間種々厳しい意見を述べたりした。昭和六二年度は被告理事の改選期に当たり、原告田中は理事選挙に立候補を予定し同年一月頃から運動していた。被告の定款には、昭和六一年度においては、理事は定数一五名(二八条)で、原則として正組合員(法人にあってはその役員)の中から総会において選任されるが、右定数の四分の一以下は正組合員以外の者から選任することができること(二九条一、二項)、理事の任期は三年であること(三六条)、総会の議事は出席した正組合員の議決権の過半数でこれを決し、可否同数のときは議長の決するところによること(四三条一項)、総会に代わるものとして総代会を設け毎年五月通常総代会を開催するものとするが(五〇条一項本文)、総代会は正組合員から選任された総代により組織すること(五一条)などが規定されていた。右定款及びその付属規程は、昭和六二年度において一部変更され、その結果、理事の定数は一〇名に減員となったが、原告らが住所を有する大浜地区からの選任数は従前同様二名(なお、同年度の大浜地区の正組合員は六二名)のままとされた。組合員は必ずしも定款の規定内容に通じておらず、理事の被選任資格は正組合員であると考えているものも多い。原告田中は昭和六二年度准組合員と判定された後、理事への立候補を断念した。原告らは同年度准組合員と判定された直後、被告にその理由を質したが、被告はこれに応えなかった。その頃被告の参事大畑武光が原告の叔父島内長市をその入院先に見舞った際、同人に対し原告田中を准組合員とするため原告島内も准組合員としなければならなかった旨述べた。右認定した諸事実に照らすと、他に特段の事情のない限り、中島組合長は、原告田中の理事当選を困難にしてその理事選挙立候補を事実上阻止するため同人を渡船業者であることに藉口して准組合員とし、その兼合いで渡船業を営む原告島内も同時に准組合員とすることを意図して前記説明に及んだものと推認すべきである。なお、原告田中自身、その証言において中島組合長が原告田中を嫌っているとか、田中との対立関係にあるとかについて明確な指摘をしていないが、これらの点は中島組合長が原告田中の理事立候補を阻止しようとした動機ないし目的を明らかにし得ないというにとどまり右意図の推認を妨げるものではない。そこで、他に右推認を妨げる特段の事情が有るか否かにつき検討するに、この点、中島組合長は、別紙3の基準4項にかかる説明等は被告の島根県への照会に対する回答に基づく旨証言するが、島根県の回答は渡船業それ自体は漁業ではないというもので右説明内容等は中島組合長の見解にすぎないと推認されることは前記のとおりであり、他に右特段の事情を窺うに足りる証拠はない。

以上を総合すると、原告らを昭和六二年度准組合員とした被告の判定は中島組合長が原告らが渡船業を営むことに藉口して委員会及び理事会を誤導した結果なされたものと推認されるから、被告は、水協法四五条一項が準用する民法四四条一項に基づき、原告らが被った損害を賠償する責任があるといわねばならない。

2  原告らの損害

原告らを昭和六二年度准組合員とした判定は、原告らの漁民性及び漁業日数に対する判断ないし認定であって、懲戒処分のような秩序違反の認定あるいは非行等に対する処分のような道義的ないし倫理的非難の認定とは異なり、それ自体原告らの社会的信用を低下ないし失墜させるものとはいい難い。また、原告らは准組合員とされた結果、正組合員のみに認められる被告の総会における議決権や選挙権を行使する機会を奪われたといえるが、原告田中が一時期監事であったこと及び原告島内が従前総代として総会に出席していたことのほか、原告らの被告における活動歴、影響力の程度を認めるに足りる証拠はなく、右機会を侵害された結果原告らがどの程度精神的苦痛を被ったのかは明確ではない。なお、原告田中がその予定していた昭和六二年度理事選挙への立候補を断念したことは既に認定したところであり、正組合員に比べ准組合員の理事への当選は相当困難であることに照らすと右立候補を断念するに至った理由のひとつに右准組合員と判定されたことが影響したことは推認に難くないが、原告田中の選挙活動の内容、程度については小人数の会合を数回持っていたことを認定できるのみであり、また、その当選可能性の程度についてもこれを認定する証拠はないから、右判定が右立候補の断念にどの程度影響を及ぼしたのか、それに関し原告田中がどの程度精神的苦痛を被ったのか明確でなく、右立候補断念の事実をもって精神的損害を被ったことを窺わせる事情ということはできないといわねばならない。他に原告らが右判定により精神的損害を被った旨の主張立証はない。

(裁判官 納谷肇)

<以下省略>

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